自由だぁ~!って、難しいですよ。

 今年、私は修士論文を作成するためにたくさんの文献を読まなくてはなりません。心理学分野の文献も読んでいるのですが、有名な心理テストで、アイヒマン実験というものがあります。

 ナチスドイツで行われたユダヤ人虐殺に際して、ユダヤ人を収容所に送る責任者だったアイヒマンが、戦後アルゼンチンに逃亡しているところをイスラエルの諜報機関モサドのエージェントによって見つかり、イスラエルに非合法に送致された後、裁判で死刑を宣告されました。

 アイヒマンは裁判において、「自分は命令に従っただけだ」と証言しました。アメリカの心理学者ミルグラムは、普通の人間に見えるアイヒマンが、こんな残虐行為をなぜ犯したのかという疑問を持ち、有名なアイヒマン実験を行いました。

 この実験では、被験者を「教師」と「生徒」に分け、教師は問題を生徒に出します。正解すれば次の問題へ、もし生徒が答えられなければ、電気ショックを流します。電気ショックは、間違いの答えが多くなるごとに強くなり、最終的には反応が無くなり、気を失うほどの強さになるのです。

 教師役の被験者が、生徒がかわいそうで実験を拒否しようとしても、白衣を着た権威ある実験者役の人が、大丈夫です。続けてください。生徒の体に後遺症は残りません。すべての責任は私たちがとります。と言い続け、実験は続きます。

 実は、生徒役の人たちはサクラで、実際には電気ショックは流れておらず、電気ショックに苦しむのは、演技です。教師役の人たちが真の被験者なのです。彼らの40人中26人(65%)が、命に危険がある最大電圧まで電気を流し続けました。我々はアイヒマンのように、戦争のような特別の環境下においては、残酷な行為をする可能性があることを示唆しました。

 このように、戦争という状況は、誰しもが悪魔となってしまう可能性を持ちます。平時の判断は行えなくなってしまうようです。ロシアとウクライナの戦争も普段の判断力を持つ人間であれば、行わないような残虐な行為も普通に行われてしまうところに怖さがあります。この実験は、その後も世界中で行われ、人種に違いはなかったのですが、女性の場合、男性の3倍の数の人が実験を中止するよう願い出たそうです。女性のほうが権威に従わず、相手への配慮ができるようです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%AE%9F%E9%A8%93

人間は、自由に判断できていると感じていても、実はいろいろな環境に流されてしまうことがこの実験からもわかります。どんな倫理観を持つ人でも空腹に耐えられなくなれば、人のものを盗んでしまうこともあり得るし、逆に飢え死にしても闇市の食料に手を出さず亡くなってしまった裁判官の話もあります。

https://dot.asahi.com/wa/2015102200042.html?page=1

 自由を得ることで、正しいと思える行動をとる責任が生まれますが、これはかなり難しいことです。もちろん、人によって正しいとされる行動は違うでしょう。それで、人は周りを見渡して、他人と同じ行動をとろうとし、また、他人の行動よりも効果的な行動をとろうとするのです。満員電車であれば、高齢者や体にハンディを持つ人に席を譲り、それを見た人はその人を称賛し、自分も譲ろうとするでしょう。しかし、戦場では一人でも多くの敵兵を殺すことが称賛される行動で、それを見た人はより多くの敵兵を殺そうとするかもしれません。

アイヒマンのナチスドイツ時代の行動は決して許されるものではありませんが、もし、私が戦時下のドイツでナチス親衛隊の将校であれば同じ行動をとったかもしれません。アイヒマンがアルゼンチンで逮捕されたのは、奥さんに結婚記念日の花束を買っていた時だそうです。イスラエルのスパイ組織は記念日のデータを持っていたのですね。アイヒマンは奥さんを大切にしていた普通の人なんです。

 そこで自分がどう生きるかを考えるときに役に立つのが、過去の人たちがどう生きたかになります。大切なことは「What」ではなく、「How」です。時代や文化が違えば、どんな行動が正しいか変化してしまいます。しかし、どう考えてその答えに達したのか、なぜその結論になったのかの過程は、現代の私たちにも通じるでしょう。

 寿晃整骨院では、スタッフ全員が持つテーマに「患者様第一」があります。私たちがどう行動することが、患者様にとって一番いいのかを常に考えて行動しています。年間100名以上の患者様を整形外科などの医療機関に紹介しています。患者様が自分でするべきトレーニングの指導もしています。自分たちの役割を十分に理解して、自分たちが抱え込むことの無いように、患者様にとって一番いい方法を考え、選択します。

戦争において信じられないような出来事が起こる背景も理解できるようになりました。おそらく現在のウクライナでは、お互いに敵国の兵士であれば即座に打ち殺してしまう状況ではないかと推察します。ウクライナ問題が早く解決して、両国市民が平時の判断力を取り戻すことを祈ります。

寿晃整骨院 総院長 木下広志