( ↑ 日本経済新聞2021,2,28)「うたごころは科学する」より抜粋
私は宮崎駿さんのアニメ作品が大好きで40年前ごろにやっていたテレビアニメに大きな影響を受けました.「アルプスの少女ハイジ」や「母を訪ねて三千里」など毎週欠かさず見ていたと思います.当時は録画してみることができなかったので日曜日の夜だったと思うのですが,テレビの前でスタンバイしてみていました.
それからアニメージュという雑誌に連載されていた「風の谷のナウシカ」を読んでは,自然環境について考えていました.今日の日経新聞(2021,2,28)に坂井修一さんという方が,天空の城ラピュタについて書かれていました.この記事によると「この宮崎アニメの原作は,スウィフトのガリバー旅行記だそうだ.ガリバーは空飛ぶ島ラピュタを訪れ,その島の住人に会うそうだが,その住人は科学に夢中な科学者ばかりで世の中のことに疎い」と書かれています.ガリバー旅行記のこの話は,万有引力の法則を見つけたニュートンを役立たずの自然科学者であると痛烈に,空飛ぶ島の物語で皮肉ったのだそうだ.
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69454790W1A220C2BC8000/
そして,坂井さんがこの話をすると決まって尋ねられる質問があるそうです.「お前はどっちの味方なんだ」
ニュートンとスウィフトはアイルランド人とイングランド人で,これらの国は日本人の感覚からすればイギリス連邦として一つの国のようですが,じつは分かれている国で,民族間の仲が悪いことで知られています.キリスト教の宗派もカトリックとプロテスタントと違うことや領土問題もあり,そんなこともあって皮肉ったのでしょうか.
ニュートンが発見した万有引力の法則はとても大切な法則だし,スウィフトの書いたガリバー旅行記も夢が多く,社会に与えた影響は大きいと思います.このようにどちらかが優先される価値を持つものではないし,その時々で価値は変わります.
今朝,この文章を読みながら自分はどちらの味方をするだろうと考え,科学と生活のどちらが大切かというテーマなのかと思いました.結論はどちらも大切ということになります.科学の進歩無くして,今のような私たちの生活は成り立たないし,逆に生活よりも科学が優先するとすると原爆投下や公害問題などそこに生きている人をおろそかにしてしまう危険があります.
どちらかに傾くことはバランスを欠いて何かの形でしっぺ返しを受けてしまうような気がします.スペイン風邪と呼ばれるインフルエンザの歴史を読んでみると,当時の世界は第一次世界大戦中でこの病気はその戦争に参加した兵士たちの死亡率が高く,まるで戦争を終わらせる目的があってウィルスが蔓延したようにも見えると著者は書いています.あまりに高まった人間の欲望のバランスを取ろうと神様が…もしかしたら悪魔が影響したのかもしれません.
東洋医学では,このようなバランスのことを陰陽に当てはめて考えます.男女・老若・温冷・上下・内外といった項目のバランスが取れるように,鍼やお灸の施術はもとより,考え方や栄養などを整えていくのです.
例えば,身体と住んでいる土地は二つに分けられない(関係している)と考えて仏教用語で「身土不二」などと言いますが,健康的に生きるなら,その土地で摂れた農産物を食べ,気候を尊重しようというものです.寒い時期には温かいものを食べて体を温めます.また,食材そのものに体を温める作用のあるものを食べたりすることを考えます.陰に惹かれ土の中(陰の気が強い)に潜ろうとするもの(根菜類)は,陽の気を持つから体を温めるのだといわれます.逆に太陽に近いところで育つ果物や暖かい土地で育つサトウキビなどは,体を冷やす作用があるといわれます.
今回の新聞記事で私は「どちらの味方をするのだ」という言葉に反応してしまったようです.どらかの味方になるとバランスを欠くことがあります.日本の外交でどっちつかずの選択をしますが,これは日本人の性格かもしれません.
陰陽といえば,夫婦は陰陽をよく表していると思います.当院で働いているスタッフが結婚するのを見ると,相手に選ぶのはとても良い相性のカップルであることがほとんどです.例えば,外交的な性格には慎重な足場を固めていくような相手がくっつきますし,よく気が付く性格であればおおらかな人間,気が弱い性格であれば姉さん肌の相手がくっつくような気がします.世の中は本当にうまくできているなと思うのですが,もっと基本的なところでも,暑がりであれば寒がりの人,あけっぴろげの人にはかっちりとした人といったように欠けたところを補い合う性格や感性を好むように思います.
このような反対の人を選ぶことは,DNAレベルでも起こっているそうで東北大学教授の山元大輔先生も以下のようなことを書いておられます.
https://zexy.net/s/contents/lovenews/article.php?d=20131022
遺伝子的に多様性を持つことは,様々な病気に対しても強くなるともいわれていて,ヨーロッパの貴族のように近親者による婚姻を繰り返すと劣性遺伝子による障害が発生することも知られています.
私たちが好きになって結婚する相手は,自分に無い面を持っている人を選ぶことが多いので夫婦の性格は合わないのが普通で,いろいろな好みや性格,行動パターンは逆であることが一般的です.遺伝子的に真逆の関係を選んでしまう夫婦関係と半分自分のコピーである親子関係はずいぶん違うことになります.旦那さんの考えていることがわからないのは当然かもしれません.
私たち夫婦は結婚して30年を過ぎ,お互いの遺伝子的自由行動を認められるほど,成長することができました.この年齢になるとお互いに依存しているのでお互いの価値を認められるようになりますね.子供たちもそれぞれ自立し,子供にお父さんとお母さんのどっちの味方なんだと聞かなくてもよい状態になることができました.